カエデ属分類の難かしさ 一鉢植えを試みて一

近畿植物同好会々誌第16号 1993年 矢野正善

 カエデ属の分類をしていて,変化の多さに随分悩まされる。古くは元禄年間に既に百品種が歌を添えて表され、,明治十五年には二百余品種が輸出カタログとして取り上げられているように,園芸種として早くから注目愛好されてきた。さぞかし自然の野山にも多く変化種が見られたものと想像する。現在日本の山々は大半が植林され,多くのカエデ類は切り倒されたことであろう。なんとか国立公園内で保護され生存しているので,ありがたいが調査するには随分やっかいである。
 山に出掛けて何カエデか同定する場合,葉に頼ることが多い。カエデの葉形は各々の種ごとに安定したものと,変化の多いものとがある。イロハモミジ節,ウリカエデ節,イタヤカエデ節は特に一種ごとに多様に変化が見られる。その変化の度合いをある程度知っておく必要があると考え箇条書きに取り上げて見た。                                             
 1.大葉のもの,小葉のもの
 2.厚葉のもの,薄葉のもの
 3.掌状全裂のもの,掌状浅裂のもの
 4.裂片数のことなるもの
 5.鈍鋸歯のもの,重鋸歯のもの
 6.平面的葉,波打っ葉,巻葉のもの
 7.色素が異なるもの
 8.毛の多少のもの
 9.優性のもの
10.奇形葉であるもの
11.斑入りのもの
                  
木全体では
12.高木のもの,横張り木のもの
13.幹肌が荒れるもの(荒皮,錦と言う)
14.輪生,互生,石化になるもの
                      
など数々あり,その上これらが色々と入り交じり存在している。これらのカエデは,あらゆる条件のもとで存在しているので,性質及び原因からなるものを周辺の環境,生育状態から察知することも必要である。それは次のようなものがあると考える。
                          
A.木自体が変葉をもち固定化しているもの 
B.一本の木の中で種々の葉形をもつもの 
C.生長段階で変化してゆくもの 
 a.掌状形から楕円形に変わるもの
 b.急に枚数が増え小葉になっているもの
 c.急に土地の乾燥化が進み小葉になってしまうもの
D.地域差により異なるもの   例えば関西,関東で違うもの
E.生育場所の条件によるもの 
 a.人間のたれ流した汚物などで異常に生長して変化を見せるもの
 b.岩など地下の悪条件により優性になっているもの
 c.太陽の照射条件で変化しているもの 
 d.年間水分の多少に変化しているもの
 e.森林密度により変化しているもの
 f.木の回りを人問が踏み付けて変化しているもの
 9.道路脇で毎年切られているもの
F.気象条件によるもの
 a.風雪にて枝が折れ枚数が少なくなり徒長しているもの
 b.雨の多い年,少ない年によって毎年異なるもの
 c.種子が多くなる年,少ない年によって変わるもの
 d.夏の風雨により毛,種子がないもの
G.細菌,害虫により変化しているもの
 a.ウィルスにより斑入りのもの 
 b.病気により変形,色素変化しているもの 
c.害虫により再萌芽し変化しているもの
 d.テッポウ虫により紅葉が早まるもの
H.突然変異によるもの
 a.枝変わりと言って一枝が異なる形態になるもの
 
 このように性質と条件で存在するカエデを同定するには,出来得る限りの性質と条件からなるカエデを一本でも多く,お目にかかっておかなければ到底判別はできないと考えた。
 まず一種ごとに同定できた標本を多量に集めることが一番の解決方法だと考えた。と同時に,これをファイルし千枚めぐりの様にして難物を検索すれば,殆ど解決できると思ったが難物中の難物は何時までたっても難物として残ってしまうのである。
 そこで難物と思われるものの種子をまき,その変化を見た。種子を採取してわかったのは,翼果の開出角度が種の決め手にはならないことである。特にイロハモミジ節,イタヤカエデ節には変化が多く,開出角度が180°から0°に近いものまである。時には一本の木に水平から交差になるものがあった。他の種においても翼果の角度は水平から45。までは存在する。また年によっても変化するものもある。日照との関係が大きいようだ。
種子採取の時期はカエデによって違うが,(ハナノキは六月)ほとんどのカエデは,秋の台風の風で種子が無くなる前の九月中旬に採取するが,残っておれば十月以降でも採取できる。
採取した種子は軽く日陰乾燥をし・雨の当たらない所で砂に埋めておき,春2月下旬種子をまく。種子にはしいなも多く物によっては全部発芽しない場合もある。幾つか種子を半分に切って調べるとよい。                  
 発芽したものは,双子葉を出す。この段階で斑入りのものは斑紋があらわれる。次に本葉が二枚開出した段階で,矮性,極深裂,糸状のものかが区別できるが,その他のものは徒長葉状で,同じに見えて判別できない。
本葉が四〜八枚程になったときの葉形にはその木の将来特色があらわれる。この時を見逃すと多年特色を表さないものもある。変化の多い特色のものは,大変弱くこの時期に虫害,雑菌などで枯らすことが多い。
自然界では,動物の掘り返した場所,人間が作った道脇のさら地に種子の発芽は多く見られるが,よほどの条件のよい所でないかぎり,それ以後は人手で育てるよりもはるかに生存率は少ない。ましてや変わりものに至っては生命力が弱いので,皆無に等しい。生長のよい木は一年で1m以上にもなるが(イロハモミジなど)中には三年たっても15pにしか伸びない(オオモミジなど)ものもある。
 しかし或る年月がくると,突然生長をスピードアップするものもある。木は生長するに従って安定した葉形になるが,それには長い年月がかかる上に,花が咲かないと成木とは言わないので一工夫必要なのである。
 挿し木,接ぎ木を利用すると,その木の成木の様子を早く見る事ができる。カエデの中でも挿し木の出来るものと出来ないものとがある。
ウリカエデ節、ハナノキ、ミッデカエデ、イロハモミジの一部は割合活着するが,メグスリノキ,イタヤカエデの一部は全く着かない。
接ぎ木は少々技術を要するが,時期,管理を間違えなければ早く結果を出すことが出来る。とは言っても三年以上は栽培をしないと親木の特色はあらわれない。
 盆栽の世界では根や枝を切り詰めて木の老化を速めさせ,成木に仕立てている。これを利用して木をコントロールすればよいと考えた。
盆栽のように枝に針金を掛けたり,極力小さく仕立てたり,薄い鉢で作る必要もないが,枝と根と鉢により,一年でも早く成木にすれば観察がスムースにゆくと考えた。それでも五年〜十年はかけないと成果は出ないだろう。
 生長と共に二年ごとの植え替えをやらなければならない。鉢はじょじょに大きくしてゆき、土は水やりをして泥状にならなければよろしく,どちらかと言うと水持ちのよいものを好む。この時に根の先を少し切り詰めておく。枝は毎年切り詰める。
この枝の切り詰めは徒長枝,長枝を切り詰めるのであって,短枝は切らないようにしないと,折角の花序を摘むことになる。肥料は春に与えて,以後はあまり与えない。
置き場所は,地面に湿度のある風通しのよい場所ならば申し分ないが,でなければ大きな木の周辺で一日に数時間日照のある,風通しのよい場所がよい。
 カエデの育成で一番肝心なのは水やりだと考える。植え替えた後は特に毎日十分の水やりが必要である。春の萌芽時はカエデにとって多くの水分を必要とする。この時の水加減で生長具合が決まるようだ。
一番厄介なことは梅雨どきである。雨量具合で鉢の中が乾燥状態になったり,水浸しになったりして,葉先を茶色くしてしまう。時には落葉することさえある。夏の雨も同じである。カエデの仲間は大変水分を好む植物である。
自然の山々を見ても地面を見ると湿度の高い場所に生育している。尾根筋の乾いた場所にもあるようだが,そこは年間雨の回数が大変多いとか,地面を少し掘ると十分な水分がある。しかしヘドロ状態ではない。
秋の紅葉までしっかりした葉を保つには,何をさておいても水やり加減である。水やりが面倒で地面に植えられる人も多いが,よほど条件の良い場所造りをしない限り,カエデによって生長はおろか枯死はまぬがれない。
 鉢の大きさは,その人の水やり加減と,その木の根の分量に関係するもので,大きければ良いと言うものではない。また木の生長度にも気を使ってやるべきである。
すなわち生長の遅い種類は根の1〜2割大きめの鉢がよく,生長の早い種類は3〜4割大きさの鉢に植えるとよいが、あまり緩めると徒長枝ばかり出て特徴を見るのに年月がかかり過ぎる。
このようにしても鉢の大きさにかかわらず良く乾く体と,乾きにくい体とがある。この点にも十分注意が必要である。ここをマスターすれば,北海道から沖縄までのカエデ類は同じ場所で育成させる事ができる。
もちろん奈良県下の1,800mのナンゴクミネカエデ,オオイタヤメイゲツであれ育てることは可能である。あとは虫害である。このようにして栽培し生育を観察していると,一本の木においても生長段階での変化,虫害,害,気象による変化,水分の多少による変化,二次芽の変化等の葉形が見られる。
 若木及び日陰の木は総体的に葉が小さいか,掌状深裂若しくは全裂である場合が多い。特にイロハモミジ節のイロハモミジ,オオモミジ,ヤマモミジによく現れる。イタヤカエデ節のエンコウカエデは,その状態にあり,イタヤカエデと区別する必要はないと考える。中には掌状全裂そのまま生長する木もあるがまれである。
 一本の木で太陽のよく当たる部分の葉は浅裂で,日蔭の部分は深裂である木も幾度か見ている。徒長枝に大葉のでる場合,木の幹の太さ,根の状態からみて枚数が少ない時,葉の数も少ないため一枚一枚が大きくなる。また肥料がよくきいて大葉になる場合もある。どちらにせよ普通の倍以上の大きさの葉で少々変化している。
 葉の裂片数は,その木の生育状態で変化する。例えばイロハモミジでは七裂が普通である。五裂のものは生育不十分の状態が多く,まれに安定した五裂の木もあるが,生育のよい木の葉を調べると九裂も見かける。
オオモミジは七裂,九裂とあるが,割合として同じぐらい見かける。たまに五裂のものもあるが,その大半は生長途中の木の葉が五裂になりやすい。ヤマモミジもオオモミジと同じと見た。
最近自然では生育不十分の木が多く見かけるので要注意である。またウリカエデ,ホソエカエデ,ヤクシマオナガカエデなどのように生長と共に楕円形の葉形になり裂片がなくなるものもある。イタヤカエデなどは生長と共に七裂が五裂になるものもあれば,五裂が七裂となるものもある。葉に生ずる毛は,葉の展開と共に消えるものもあれば,何時までも残るものもある。
オオモミジは萌芽時全体に白毛に包まれて展開するが全開して一カ月もたたない内に全く消えうせる。他の種にも,ほんの少しの毛ではあるが,このような現象は見られる。コハウチワカエデのように萌芽時には葉の両面,及び若枝にも長い白毛に包まれるが,安定してからは生長した枝にも,葉にもあまり残らないものと,大変多く残るものがある。
メグスリノキ;ミッデカエデ,テツカエデ,クロビイタヤ,タイシャクイタヤはよく残る。いずれにしても梅雨時から秋までに大風が吹けば,ほとんどの葉の毛は少なくなる。また二次芽の展開葉には以外と毛が少ない場合が多い。        
 葉柄の長さは検索の対象としては難しい。その木の生活環境に大きく関係してくる。またそれぞれの枝の位置と日照との関連で長短が生ずる。大きな木は頂上付近と裾枝では木によって倍近くの差が生ずるハウチカエデは葉の巾の二分の一が葉柄の長さとあるが,同じ長さの葉柄をもつ枝もある。一年枝の太さ,長さは,今年の生長度のバロメーターになる。徒長枝,長枝,短枝の中でも痩せた木か,肥満木かを見分ける必要がある。
 短く細かい枝は小葉の場合が多く,コハウチワカエデをヒメウチワカエデと同定したり,ハウチワカエデをコバコハウチワと取り違える恐れがある。オオイタヤメイゲツの小葉などはヒナウチワカエデと同定してしまいやすい。接ぎ木をして正常に育てるとガッカリする。
 花は小さく,見る機会も少ないが,よくよく見ると個性のあるものである。雄花,雌花,両性花があり,生育状態で雄木であったり,雌木であったり,両性木がある。誠に定まりにくい。それに花弁,蕚の巾の広細がある。
 種と種の区別はついても,種内での変化については検索がやりにくい。このように変化種を見て来ると種と種の中問形が,かなり多くあることがわかる。これらを雑種として片付ければ簡単だが,自然界に多くあるものを無視する訳には行かない。分類が,それぞれの種の何何形として処分できれば,例えば「ヤマモミジのヒナウチワ形」「ヤマモミジの浅裂重鋸歯形」等など,或いは何何グループと,例えば「イロハモミジグループ」「ヤマモミジグループ」とした方がよいのではなかろうか。でなければ無限に名前が付くことになる。この辺はこれからの課題である。

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