奈良県のカエデについて 2009年11月補足   

奈良植物研究会会報第56号 1995年 矢野正善


 
奈良県にどのような自生カエデがあるか、資料とともに機会あるごとに調査している。第18回大会のとき、片山紀一会員(故人)から頂いた「植物都道府県別分布表1992日本野生生物研究センター」のカエデの部分をみると、
      
アサノハカエデ オニイタヤ イロハモミジ 
ウリカエデ ウラゲエンコウカエデ オオモミジ
ウリバダカエデ エンコウカエデ(イタヤカエデ) コハウチワカエデ
ホソエカエデ チドリノキ ヒナウチワカエデ 
コミネカエデ ミツデカエデ ハウチワカエデ
ナンゴクミネカエデ ハナノキ オオイタヤメイゲツ
テツカエデ メグスリノキ カジカエデ
オガラバナ カラコギカエデ  


が記載されていた。この中のイタヤカエデ、オガラバナ、ハナノキ、メグスリノキを取り上げた。
イタヤカエデの分類は異論が多いが、緒方健先生の分類がもっともわかりやすい。
最近学名がおかしいということで、「大橋広好1993.イタヤカエデとその種内分類群の学名」「植物研究雑誌Vo1.68 No.6 P315-325」が発表された。ご存じない方のために、学名のみを書き写す。

Acer pictum subsp, pictum var. pictum f. ambiguum (Pax) Ohashi       オニイタヤ  
Acer pictum subsp, pictum var. pictum f. pictum              フイリオニイタヤ
Acer pictum subsp, pictum var. pictum f. Pulvigerum (Ogata)      ミヤマオニイタヤ
Acer pictum subsp. mono var. mono f mono (Maxim.) Franch.          エゾイタヤ
Acer pictum subsp. mono var. mono f, magnificum (Hara) ()hashi      オオエゾイタヤ
Acer pictum subsp. disectum var. disectum f. disectum (Wesmael) Ohashi
                                              エンコウカエデ
Acer pictum subsp. disectum var. disectum f. pi1iferum (0gata) 0hashi ケエンコウカエデ
Acer pictum subsp. disectum var. disectum f. connivens (Nicho1s) 0hashi
                                          ウラゲエンコウカエデ
Acer pictum subsp. disectum var. disectum f. puberulum (0gata) Ohashi
                                        ケウラゲエンコウカエデ
Acer pictum subsp. glaucum (Koisz.) 0hashi                   ウラジロイタヤ
Acer pictum subsp. savatieri (Pax.) 0hashi                    イトマキイタヤ 
Acer pictum subsp. mayrii (Schwerin) 0hashi                      アカイタ
Acer pictum subsp. taishakuense (Ogata) Ohashi               タイシャクイタヤ

イタヤカエデは総称名であって一種の和名ではない。葉のみの検索であるが簡略に記しておく。

オニイタヤ(ケイタヤ、トキワカエデ)」裂片7、たまに5。浅裂で裂片は四方に広がるが、たまに基部より前方に片寄るものもある。葉裏一面に短毛。夏には見にくくなるので注意を。奈良県に自生。
ミヤマオニイタヤ」オニイタヤと変わりはないが、1年枝に毛があるもの。奈良県に自生。
エゾイタヤ」裂片7、たまに5、9。浅裂木によって切れ込むものあり。鋸歯が1あるものもある。葉は中型が多い。無毛、たまに葉裏主脈、基部に短毛。北海道、東北、北陸の海岸に自生。奈良県にはない。
オオエゾイタヤ」エゾイタヤの大葉、果実も大きいものをいうが、地域的なものとも思えるので、エゾイタヤでよいではないかとも思う。同じく奈良県にはない。
エンコウカエデ(イタヤカエデ、アサヒカエデ、ナナバケイタヤ)」裂片5、たまに7、半円形である。無毛だが、基部に短毛があるものもある。裂片は、倒披針形で基部まで裂けるものから浅裂まである。両方備える木もあるし大木でも全裂もある。幼木は、ほとんど深裂。鋸歯は1つあるものもある。東北の太平洋側、関東、中部、近畿、四国、九州に自生。
ケエンコウカエデ」エンコウカエデと変わりはないが、1年枝に毛があるもの。秋になると毛が落ちてわからなくなる。
ウラゲエンコウカエデ(アキカゼ)」裂片5、たまに7。葉形は半円形。葉裏の主脈に毛があるが全面毛があるものもある。東北の太平洋側、関東、中部、近畿、四国、九州に自生。
ケウラゲエンコウカエデ」ウラゲエンコウカエデと変わりはないが、1年枝に毛があるもの。秋には毛が落ちてわからなくなる。
ウラジロイタヤ(ウラジロイトマキイタヤ)」裂片5、たまに3または7。葉形は半円形。中裂でやや小型の葉である。無毛または葉裏基部に毛がある。葉裏は白いが、他のイタヤカエデと変わらないものもある。新潟県、山形県の山間部に自生。奈良県にはない。
イトマキイタヤ(モトゲイタヤ)」裂片7、9たまに5。浅裂。葉裏基部のみに毛がかたまってあるが毛の少ないものもある。関東、中部地方に多く、滋賀県、奈良県にも自生する。
アカイタヤ(ベニイタヤ)」裂片5、たまに3または7。浅裂で葉幅が長く横長方形で、大きな葉のものが多い。無毛。1年枝は冬、赤色、または緑でつやつやしている。若いものは緑色が多い。北海道、東北、北陸から山陰の日本海側に自生。奈良県にはない。
タイシャクイタヤ」裂片5、たまに7。半円形で中裂が多い。小ぶりの葉で両面、葉柄に毛がある。秋には葉表の毛がなくなりやすい。広島県帝釈峡の付近のみ自生。

イタヤカエデすべてにいえることは、鋸歯がない。あったとしても鋸歯が1〜3である。よく伸びた徒長枝、長枝につく葉の裂片は5、浅裂でどの亜種、変種、品種もほぼ同形になる。葉にある毛に対しても同じことがいえる。果翼の角度は同種でも木によって変化があり、決め手の一つにするには大変危険である。府県によって雑種も多いが奈良県内は割合はっきりしている。
奈良県に自生するイタヤカエデ類は、わたしの知る限りではエンコウカエデ、ウラゲエンコウカエデ、オニイタヤは県内平均して見られる。ミヤマオニイタヤ、イドマキイタヤは川上村から上北山村の大台ヶ原山系で見た。 

 オガラバナについて平成2年に農林水産省森林総合研究所の緒方健先生(現在退職)にお手紙をしたところ、以前に発表された「日本カエデ科の樹木学研究と共に地理学的分布の専門照合 演習林報告601965東京大学農学部付属演習林刊」を頂たいした。その中にオガラバナの所在地「大峰山系の弥山一の峠(一のタワ)、もみやま1955東京大学理学部の標本」とあった。早速、知人の上田四郎氏(和歌山市)に話したところ数回にわたって調査された。昨年7月3日わたし自身も出かけた。一のタワ付近一帯を時間をかけて見たのと、天川辻付近から、聖宝の宿跡までの尾根道をゆっくりと見てまわった。この付近の笹は背が低く、歩きよく見通しもよいのだが確認はできなかった。その間のカエデは、ほとんどがオオイタヤメイゲツでわずかにアサノハカエデ、コミネカエデがあった。この尾根筋で標高1400m前後だがコハウチワカエデも見た。

瀬戸剛先生から京都大学理学部にも標本があるとお聞きした。北川尚史先生の紹介で京大理学部の標本室に入ることができた。オガラバナの標本は弥山と釈迦ガ岳があった。どちらも葉裏に毛がいっぱいあった。弥山の標本にHottaと名前があった。北川先生の友人とのことで問い合わせしてくださった。堀田満氏(鹿児島大学理学部)で、28年前のことなので正確な位置は分からなかったが、再び上田氏は出向き、わずかな本数ではあるが確認された。今年この目で観察したいと思っている。もう一つの所在地は「大台ヶ原 岡本勇治1937P80」とあった。この本は奈良県立図書館にあり、「岡本勇治著大和植物誌1937,大和山岳会」であることがわかった。ホザキカエデ(オガラバナの別名)として記載がある。今となっては雲をつかむようである。

ハナノキ「日本の野生植物木本皿1989,P8.平凡杜」によるとr岐阜、長野両県南部、および愛知県北東部の3県県境一帯に自生し、長野県大町市に隔離分布している」とある。奈良県には自生はない。現在県内にあるハナノキは植樹と確認されている。所在地は、大宇陀町の森野旧薬園内、榛原町山路の山村家(雄木)、大淀町の世尊寺、月ヶ瀬村長引の墓地(雌木)、月ヶ瀬村石内の八幡神社境内(雌木)。それぞれ大木である。森本範正先生のお話しでは、大和郡山市矢田町の子供の森にも数本植樹されたものがあるとお聞きした。わが家にも小木ながら数本ある。月ヶ瀬村役場の前にもあると菅沼孝之先生に教えて頂いたが、役場新築の時に切り倒されたとのことで現在は跡形もない。

メグスリノキ片山会員、森本範正先生から野迫川村の吉野武文会員を紹介して頂き、電話ではあるが自生があることを確認した。奈良植物研究会会報53号に記載してくださったので省略する。ただ昔は目の病気が多く、村外れの山にメグスリノキを植えたものだと老人から聞いたことがある。一時は何の役にもたたない木だとされていたので自然に同化し、今となっては自生との判断は大変難しい。「大和植物誌」の中に、メグスリノキが春日山鴬滝付近、大柳生村、金剛山などと記載があるが確認がとれない。(1999年秋上北山村で多数のメグスリノキ発見)
そのほかにヒトツバカエデが室生山、ホソエカエデが金剛山、ハウチワカエデが金剛山とあるが、これらも探してはみたが確認できない。わが家の庭のカエデ類を見ながら比較検討できる日を楽しみにしている。
後に吉野郡上北山村に自生があることはわかった。大きな木があったが道路拡張のため伐採されたが、若い木が残っているようだ。

カラコギカエデ森本範正先生が山辺郡にて観察されたことを奈良植物研究会会報に発表された。私自身観察したいが機会が無い。大和郡山市のタゴタ池の南側にかなりの数のカラコギカエデがあるが、植栽されたものと聞くが、自生と見て良いとも言われている。。
2008年に宇陀市榛原区にて発見された。道路脇で何回も切られながら根株から芽を出し自生している。数十本は残っていたが、今現在(2009年8月)で半分しか残っていない。市の文化財保護委員会で何らかの方法で保存できないか検討してもらっれ居るが、一般にはそれほど重要な木でないので何ともいえない。(2009年)


TOP                    INDEX