テツカエデを訪ねて

奈良植物研究会々報第47号(1992年)東吉野村明神平 矢野正善


 昨年の暮れに岩佐さんより「奈良県にテツカエデがある」との電話を頂戴する。私には東大農学部演習林報告書第60号「日本産カエデ科樹木の樹木学的研究と地理学的分布の専門照合(緒方健氏)」のテツカエデ分布図に奈良県の所に黒丸がなかったので無いものと思っていた。

 テツカエデがあるのならば・ぜひ見に行きたいものと念じていた。今年の会報の行事予定に発表されたときは、うれしくて何はさておき予定表に大きく書き込んだ。当日の朝、豊住さんの車に便乗させていただく.,大又の笹野神社にて集合、注意事項を森本さんより聞く。"後車止めまで車で行きそこから山に入る。。車を止めたガードぎわに、いきなりミツデカエデを数本見る。幸先のよいことであった。川沿いの道にはオニイタヤ、ウラゲエンコウ、チドリノキ、コハウチワカエデが多くあった。それにエンコウカエデ、イドマキイタヤも見かけた。特にオニイタヤの大木は尾上さんに教えて頂き感動した。目高で直径80cmぐらいはあったのではないだろうか。
   
イタヤカエデは奈良県内で下記のものがあると思われる。                 
 オニイタヤ  葉裏全面に短毛があるもの
 ウラゲエンコウ  葉裏全面もしくは主脈に開拙宅のあるもの
 イトマキイタヤ  葉裏基部脈腋にめだって毛束があり他にはないもの
 エンコウカエデ  イタヤカエデの日陰の葉、幼少時の棄で時にはそのまま固定 する。葉裏基部に少々短毛があるほか無毛のもの


 このように植物図鑑などに記載されているような、はっきりしたものもあるが中間種も多い、葉形にいたっては一定していないので、同定の決め手にはならないのでやっかいである。中間的なものを同定するときは人によて、どちらかに傾くのも、やむをえないと思う。エンコウカエデはフカギレイタヤカエデと考えてもよいのではないだろうか。
 川から離れると標高1000mを越える。ハウチワカエデ、ウリハダカエデ、オオイタヤメイゲツ、オニイタヤが見られた。そして待望のテツカエデがあった。見上げる程の大木もあり下から見ると葉は黒々していて厚そうであった。花茎がやっと1.5cm程で、花は見られなかった。幹も黒々していたのには驚いた。

テツカエデはテツカエデ節に独立しているが、同定するには 
 テツカエデ   葉の表面が縮緬状で表裏共に短毛があるもの
 ウリバダカエデ  葉の裏面脈上や脈腋に褐色の縮毛があるもの
 ホソエカエデ  葉の表裏共に無毛、裏面の脈腋に薄膜のあるもの


といった具合に検索するとよい、葉の大きさはテツカエデが大、ウリバダカエデが中、ホソエカエデは小と決めてもよさそうだが、成長中の木はお互いに葉は大きい。,また自生場所により生育ぐあいがことなるので葉の大小による区別は禁物である。当日も村田賢三さんが見つけられたウリバダカエデはテツカエデより大きかった。帰ってから、わが家の庭を見ても20co級の葉が3種共にあった。
 テツカエデを見た場所付近からオオイタヤメイゲツが多く見られた。元明神平スキー場の周辺には大木のオオイタヤメイゲツがあり。、じょじょに中央へと2〜4mぐらいのオオイタヤメイゲツが一面に自生しつつあった。また草陰には実生苗を沢山見かけた。オオイタヤメイゲツは萌芽寸前のものから、しっかり葉を展開させたものまで種々見かけた。萌芽の時芽鱗から退化葉柄が長く出で赤く、それが伸びかかった葉の緑色に映えてきれいだった。
 以揃も弥山、前鬼で気になっていたことだがオオイタヤメイゲツの小葉のもの、および成長の悪い葉と、ヒナウチワカエデの葉とがよく似ている。葉の基部などもそっくりなものがあるので同定が大変難しい。どうも.中間種などもあるようである。                          
 少々時期が早いので標本にするには、採取しても家に持ち帰るまでにティッシュの使用後のように縮むので、厄介である。なおカエデの観察は、どうしても上を向きがちである。山道は足元が悪いので下をよく見ないといけない。私は強度の近眼なので遠近が急に変わるとピントがあわない。下山は少々急ぎ足だったせいもあってか酒に酔ったように千鳥足になってしまった。付近にチドリノキがよく目についたのも皮肉なものだ。
     


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