春 も み じ  

1984年4月1日 矢野正善


 もみじは秋のものと思っている人がいるが「もみじどき秋は遠目にみるがよし春は近くでみるがよし」と言うこともあるように、古くは宝永七年(一七一〇)に出版された植物書物[増補地錦抄」巻之四楓之類 歌仙楓三十六種葉形之図」の中に「もみぢつくし楓ハ穐(あき)の紅葉を第一といへ共今来古往春の出葉にさまざまの色ありて秋は猶色を染るのながめ有り……」と書かれている。各地によって萌芽の時期が随分違うが、我が家の庭では、早い萌芽の木は三月二十日頃から、遅い萌芽の木で四月二十日とそれぞれ異なり、「みどりの日」から「こどもの日」にかけて最高潮に達する。
 小さな冬芽から、丸まった折り紙をほぐすかのように、それぞれの芽から葉に成長する.過程が大変おもしろい。また成長しながら芽の色は、それぞれの木によって鮮血色から紅、桃色、橿、黄、白、黄緑、緑、茶緑、茶、小豆色、焦茶、海老茶など様々。そして日一日と変化し大半は緑色に変わってゆく。と同時に斑の色がはっきり現れるもの、葉の形が変形してゆくもの、より一層鮮やかな色合いを見せてくれるものなどもある。以外とカエデの園芸品種が、多くあることをご存知でないと思う。「葉形に大小あり切込すかし葉有り丸葉有長短の品々あれバ…」と有るように、江戸初期には百種におよび、歌を添えて記録されている。また明治十五年に発行された「械品便覧」には、二百二種が海外向けカタログとして紹介されていた。しかし昭和の太平洋戦争で殆とが消失している。その後、愛好家によって少し回復したが、他の華やかな草木に人気を奪われ、現在に及んでは園芸店の片隅に数種並んでいる程度。辛うじて全国に数軒の業者が、接ぎ木にて品種の苗木を生産してくださっているのがうれしいことなのだ。現在園芸品種は、三百余種程が、愛好家の手で残されてはいるようだが、よく似たもの、同じものが名前違いで、多くある。
 古くからヨーロッパの植物園やアメリカのオレゴン等にて、多くの日本カエデ園芸品種が大切に育成されていて、日本では現在無くなっている品種もあるが、その後、種子から新しい品種も多く生まれているようだ。海外では盛んにシンポジウムも開かれているようだが、日本にはそのような事は聞いた事がない。
 日本に自生している自然のカエデ科植物は、次のような名前のものがあげられる。

和名 異なった呼び名
ウリカエデ メウリノキ、メウリカエデ
ウリハダカエデ  
シマウリカエデ  
ホソエカエデ アカボソウリノキ
ホソエウリハダカエデ
ヤクシマオナガカエデ  
ミネカエデ  
コミネカエデ コバナカエデ
ナンゴオクミネカエデ オオバミネカエデ
ヒトツバカエデ マルバカエデ
テツカエデ テツノキ
オガラバナ ホザキカエデ
イロハモミジ タカオモミジ、クサモミジ
オオモミジ  
ヤマモミジ  
ハウチワカエデ イタヤ、メイゲツカエデ
コハウチワカエデ イタヤメイゲツ
ヒナウチワカエデ  
オオイタヤメイゲツ  
和名 異なった呼び名
イタヤカエデ  
アカイタヤ ベニカエデ
エンコウカエデ 旭楓、秋風
ウラゲエンコウカエデ  
ウラジロイタヤ   
イトマキイタヤ モトゲイタヤ
エゾイタヤ  
オニイタヤ トキワカエデ、ケイタヤ
タイシャクイタヤ  
クロビイタヤ ミヤベイタヤ
クスノハカエデ  
メグスリノキ 長者の木
カジカエデ オニモミジ
チドリノキ ヤマシバカエデ
アサノハカエデ ミヤマカエデ
ミツデカエデ ミツバカエデ
カラコギカエデ ヤチイタヤ
ハナノキ ハナカエデ

 
 中には覚えにくい種類がある。また同定判別の難しい種類もある。
 外国種でも日本化され、盆栽、街路樹など、よく見かけるものにトウカエデ、タイワントウカエデ(宮様楓)、ネグンドカエデ(トネリコカエデ)、カナダカエデ、サトウカエデ、アメリカハナノキ等と結構あるものだ。
 カエデの中でもオオモミジ、ヤマモミジは、特に葉の変化に富んでおり、人々の顔のように異なるので、その中から特色のよく出たものに品種名を付け栽培品種となっている。
 世界に誇れる古典植物だけに、何時までも日本で、大切に育成されていてほしいものだ


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