ヤ マ モ ミ ジ 雑 話

奈良植物研究会会報第49号  1993年 矢野正善


 奈良県にヤマモミジは自生していないので、見る機会が少ない。それなら自分の庭で育てれば、らくちんと考えた。苗木はほしいが入手経路がわからない。うっかり頼めばとんでもないものが舞い込んでくる。イロハモミジとオオモミジの自生がない所の、石川県、富山県、新潟県、山形県、秋田県が安心である。近畿植物同好会々長・平野弘二先生にお願いして新潟の先生を紹介して頂いた。快く引き受けてくださった方が何と、新潟大学理学部の石沢進先生であった。また新潟でカエデの分布を調査された尾崎富衛先生、そして岩野俊逸先生であった。大変お世話になった。この場を借り御礼を。間違いなくヤマモミジである。.春になり葉が展開しはじめて驚いたことは、それぞれ葉の形が違うのである。以前滋賀県でヤマモミジの南限とされている場所で採集し、ヤマモミジとオオモミジとの中間種として扱ってきた標本と、同じものが交じっている。新潟では全部ヤマモミジになるのである。頭が混乱して、これでは人からヤマモミジはどんなのかと、問われたとき答えようがない。はたと困った。事件が難航すれば現場に戻れという言葉がある。そこで一からやり直しをした。
植物の中でカエデはどこに入るのか、まず図鑑により検索を開始する。

 被子植物亜門 ANGIOSPERMAE     すなわち種子が果実の中にできる一もの。

 双子葉植物網 DICOTYLEDONEAE  発芽して最初に出る子葉が2枚のもの。

  離弁花亜網 CHORIPETALA        花弁が一枚ずつ離れるもの。

 カエデ科 Aceraceae       葉は対生に出て先が奇数、托葉がない。種子は翼果。

 カエデ属 Acer L.        染色体13,3倍体〜4倍体、日本に26種が自生。

 カエデ節 Palmata        葉は単葉で鋸歯があり、5〜13本の掌手の主脈がある。
                      序は今年枝に頂生し複散房状、雄花と両性花。雌雄同株。
                     花盤は雄蕊の外側にある。芽鱗は4対敷石状に並ぶ。

略して書いたので、詳しいことは図鑑を見て頂きたい。こんなことは皆さんは早くから、お分かりのことと思う。わたしは真剣である。この次きからも検索表で理解できると思っていた。
 ヤマモミジに入る前にオオモミジをしっかり理解しないと前に進まない。オオモミジの検索を書き写す時間がもったいないので図鑑で見て頂くことでご勘弁願いたい。

オオモミジ   Acer amoenum Carr.
    又は  Acer palmatum var. amoenum (Carr.)Ohwi

学名がこのように二つ出ている。わたしはこれがいつも引っ掛かる。前者はイロハモミジとは別物、種が違うということ。後者はイロハモミジの変種(var.)である。これは大きな疑問点である。
 わたしはカエデの園芸品種を沢山育てているので、その中のできるだけオオモミジとイロハモミジの中間らしき木の種子をまいてみた。また種々のオオモミジ、イロハモミジの種子をもまいてみた。5年間ではあるが色々な葉形のものが生まれた。結果としては、イロハモミジはイロハモミジしか生まれない。すごく安定している。オオモミジは色々な変化で生まれてくるが、イロハモミジは出て来ない。オオモミジとイロハモミジの中間らしきものからもイロハモミジは生まれてこない。自生のオオモミジの種子をまいて驚いたことは、フカギレオオモミジやヒロハオオモミジに近いものや極小葉のオオモミジ(イロハモミジより小さい)や大葉のオオモミジが生まれてくる。ときたまヤマモミジらしきものも生まれる。ただ変わったものは弱く、ほとんど枯れてしまうが、普通のオオモミジは最後までのこる。オオモミジは一年目では大きく伸びない。
イロハモミジは大変丈夫で1年目で1m以上になるものもあり、みんなすくすく大きくなる。これだけの証拠では決定できないが、どう見てもイロハモミジの変種とは考えられない。よって前者の学名が似合っているというか、わたしは納得できる。それではその学名のもとで、次に進めたい。

オオモミジの変種(var.)(f.)については、
 Acer amoenum Carr. ver. amoenum f. amoenum  オオモミジ
 A. amoenum f. latilobatum (Koidz.) Ogata   ヒロハオオモミジ
 A. amoenum f. palmatipartitum (Koidz.) Ogata   フカギレオオモミジ
 A. amoenum f. horonaiense (Nakai) Ogata   ホロナイカエデ(大葉のオオモミジ)
 A. amoenum var. nambuanum (Koidz.) Ogata   ナンブコハモミジ(小葉のオオモミジ)
 A. amoenum var. matsumurae (Koidz.) Ogata   ヤマモミジ
 A. amoenum var. matsumurae f. latialatum Ogata  ホンドウジカエデ、ヒロハネヤマモミジ

 
なるものが、緒方健博士によって発表されている。これを見てもわかるようにオオモミジ自身変化の多い主なのだ。分類を最初にした人はさぞかし困ったことだろう。多くの変化の木の標本を採取して、その中から最終的には1本が標準となるわけである。その木の付近に似たものがあれば同種とみなされても、その他のものは厳密にいえば、類似木であって同木ではないのである。ゆえに我々はいかに似ている木があるかを捜し求めていることになるのである。しかし一本の木でも、その年によって大きく変化するもの、先にも取り上げたように木によって、一本の木の種子からこれらの品種が全部生まれることもあった。しかしわたしの家では、ごく自然なものだけが生き残ったのであるが、適応した場所ならば生き残れるだろうと考えられる。変種、品種というものは、オオモミジ自身もっている性質のうちで、どの部分かが固定したものではなかろうか。その固定したものの変化が大きいほどオオモミジと思われなくなってしまうこともある。
 さてヤマモミジはオオモミジの変種として扱われているが、どこが、どのように違うのか図鑑には多くを語っていない。緒方氏はヤマモミジの葉形を3種類記載されている。何よりの資料である。平凡社の「日本の野生植物 木本U」にはヤマモミジの記載は「日本海側のオオモミジの欠けたところに分布し・葉の裂片が普通9個で、ふぞろいの欠刻状の重鋸歯があるもの」だけである。この辺が大変曖昧であることは定めきれないものがあるからではなかろうか。自然は大変複雑なものである。とやかいっておれない。進めよう。新潟県の山の中ではイロハモミジもオオモミジも自生しないのであるから、すべてヤマモミジなのである。そのヤマモミジがオオモミジよりも大変変化が多いのである。
 わたしがヤマモミジと判断したものの葉形を3種類に分けた。

  1、イロハモミジ形   2、オオモミジ形    3、ヒナウチワカエデ形

冬芽も2種類に分けて考えたほうがよいのではないかと思った。

  1、オオモミジ形    2、ヒナウチワカエデ形

形は、らしきものと解釈してほしい。ヤマモミジはオオモミジの変種であるからオオモミジに近いものがあっても当然である。それではオオモミジ形らしきもの、すべてオオモミジにするぺきなのか、オオモミジとヤマモミジはどの辺で区別するかとなると難しい。それが一直線上の変化であれば簡単だが、各部分によって変化が異なるので決定するべき判断がつかない。鋸歯で選べば、冬芽がおかしい。冬芽で選へばオオモミシにされてしまうものが多い。ヤマモミジにも当然、自然の中に、ヒロハヤマモミジ、フカギレヤマモミジ、オオバヤマモミジ、コバノヤマモミジがある。その他にハウチワカエデとの中間、オオイクヤメイゲツとの中間、ヒナウチワカエデとの中間までが見られた。園芸品種のカエデは、その変化を求めたものであるから、まだまだとんでもないものがある。主脈や側脈にわずか葉肉が付いているだけのもの、葉がよじれ水やりを忘れたようなもの、ヤマモミジだが小葉でイロハモミジになり損なったようなものなどある。また根気よく種子をまき、根気よく探せば、これらの変化ものは、結構多くみつかる。これを中間種といってよいのか、雑種となるのかわからないが、この変化は何なのだろうか考えてしまう。ひっよとしてルーツはこの辺で見つかるのではなかろうか。そこで、恐れも知らず大変大胆な仮説をたててみた。
 Stt. Palmata カエデ節を変更し、Stt. Matsumura ヤマモミジ節をとなえるのである。想像ではあるが日本列島が大陸とくっついていた時は、ヤマモミジ形系のものであって、後に日本海ができ、日本列島の太平洋側で黒潮によって暖かくなり、特に大平洋側の平地に残されたものは、葉を小さくし多くつけることによって、暑さや.水分の少ないことに耐えるイロハモミジとなり安定したものと考えられる。ヤマモミは日本海側それも北に多いことは大陸の残党であると考えられる。オオモミジは太平洋側の山手といっても、500mまでの湿度の高い川筋に生き残り・多くの植物群と共存するため背を高くし日陰でも生きる工夫をしてきた植物かと考える。それだけに葉形が種々に変化し、対応しているかと思われる。オオイタヤメイゲツは大平洋側で1000m以上で生き残ったものといってよいのか、追いやられて生存してきたかどちらか分からないが大いに繁殖している。1年の殆とが雲の中で少ない太陽をしっかりと捕らえるため平たい大きな葉っぱが必要であったかと考える。あの柔らかい葉が、あまり虫にも食われず生きて行けるのも高所のおかげではなかろうか。オオイタヤメイゲツの小葉はヒナウチワカエデとよく似ている。ヒナウチワカエデはヤマモミジからオオイタヤメイゲツと変化してゆく中間のもの。オオイタヤメイゲツの自生群の山麓には必ずちらほらと見かける。.ハウチワカエデは主として日本海側の山地内の植物群こ自生しているのではないだろうか、大きな葉っぱで光合成をしないと生きてゆけない。かと言って強い太陽の下ではすぐ赤く焼ける。ハウチワカエデの舞孔雀などはヤマモミジにもよく似たものがある。オオモミジを大きくしたようなハウチワカエデもある。問題はコハウチワカエデなのだがヤマモミジや、オオモミジの葉形そっくりなものはあるが、あの厚みと毛の多さでは首を傾ける。しかし10月ごろ山で見かけるものにはオオモミジと間違えるもの、ヤマモミジと間違えるものがある。太平洋側で近畿地方は1500mから800mぐらいの急傾斜面に多く見かける。
 これも想像ではあるが、ヤマモミジ節すべての木の種子が発芽し、2枚の子葉がのびきったあとにでる、はじめの2枚から4枚までの本葉の形が、特種なものは別として、徒長枝につく葉などと同じ形の葉が見られる。この形がヤマモミジの葉形の一つに、よく似ている。一時的に元の原種に帰るのではな知ろうか。ヤマモミジ節ともなれば当然変化が多くて当たりまえて、進化の進行中ということである。イロハモミジ、オオイタヤメイゲツ、ハウチワカエデなどは安定してきたものと考える。もう想像の世界に浸るのはよそう。
今現在で考えるとき、ヤマモミジであるかどうか、わからないもの、怪しげなものはすべて
         オオモミジ Acer amoenum Carr.

にしておけば間違いないということになるのだろうか。これはヤマモミジの自生しない土地の人は納得できても・ヤマモミジしかない土地の人には納得のできない。


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