カ エ デ 標本奮戦記


奈良植物研究会会報第45号1991


 世間に見放されたカエデの古典園芸品種?をやっとの思いで集めた。さて学名を付けようと思ったところ、はたと困った。植物図鑑を買い漁って、検索をはじめたが何が何カエデなのか、どうしてイロハモミジなのかなど、さっぱり分からないことが多かった。それなら野生種を集め実物と照合すればよいのだろうと思い立ち、自然種を専門店にお願いしたが、以外と揃わない。分からというのが本音であった。方々にお願いをして何とか、一通り入手できた。集まれば集まったで標準形が、どれか分からない。どんどんカエデの園芸種・野生種と集めるのは良いのだが、大変な育成場所が入用となった。それでは押し葉標本を作ればとあいなった。とは言っても全国を採取して回る時間も余裕も無いし、標本たることも分からないまま、手当たり次第に奈良公園・京都社寺の、カエデの葉を1本1枚づつノートにファイルをした。その後友人の協力により、少々植物標本らしくなり、やっと二千余本分の標本ができた。             
             
標本を作り始めて何となく分かったことを書き上げてみると。
1.目的に応じて採取の時期を選択しなければならないこと。

2.できれば1本から二季節以上採取するとよい。

3.同じ品種をでき得る限り多く集めると変化の度合いがよく分かる。

4.採取地域は広い程良い。

5.採取した葉は、素早く乾燥すること。
等が思いつく。  

カエデの各季節の特色を考えてみると、                                      
@5月〜6月中旬は、花付き標本ができる。新芽の綺麗な色が残せる。葉は不成長、えてして細裂片・深  裂・小葉ということになる。、早い時期では安定時の3/4〜4/5位の大きさ。また早く乾燥しないと真っ黒の標本になる。カビがはえやすい。

A7月〜9月中 葉形が一番安定している。種子付き標本ができる。8月を過ぎると虫食いが多い。日照が続くと葉先が茶色くなるものも多くなる。
                                  
B10月〜12月上旬うまく完全葉が見つかると・紅葉した標本ができる。しかし葉・葉柄1年枝の毛が、脱落しているものが多くなり同定しにくくなる。この時期かなり虫食いが多い。
              
C12月.〜2月 冬芽・冬枝の標本も大切だ。

1本の樹で4季節の標本があれば理想だが、そうもいかない。同定しにくいものは、少なくとも、2季節あると割合簡単簡単に同定できる。                                           
ACの標本がほしいもの イロハモミジ・オオモミジ・ヤマモミジ:ハウチワカエデコハウチワカエテ・オオイタヤメイゲツ・ヒナウチワカエデ・カジカエデ・クロビイタヤ                          
@Aの標本がほしいもの ミネカエデ・コミネカエデ・ナンゴクミネカエデ。と言っている私自身こんなにうまく標本は、揃っていないが、庭のカエデ類を毎日のようにみていると、そのように痛感する。
     
標本は、普通B4版台紙に張るが、私はB5版にてルーズリーフに入れファィルしている。こうすることによって簡単に検索できる。詳しく調べたい時でも・引き出しやすい。                         

カエデの同定の困難なもの、間違いやすいものを取り上げてみると、                     
1、中間種・雑種・極端に変化した葉形もの等、普通でないもの。特に同定困難な樹は、9月以降に種子を採取し育成するとよい。種子は多い程よい。但し最低5年はかかるが、ハッキリとした答えが出る。

2、すべてのカエデに小葉・大葉がある、土地が痩せていて小葉になっているものがあるので注意。コバコ ハウチワ・ヒメウチワカエデは・同定時ハ特に注意しなければならない。1年枝の伸びが極端に短いものは、小葉になっているので注意。

3、年によって葉形が異なるものもある。温暖・乾湿・・雨量の時期が影響するものと思われるが、そのような性質の樹もある。

4、強い剪定・雪や風にての枝折れ・ゴミその他で栄養過多等により徒長枝・大葉・変形葉が出る。一木全体に大葉が出ると間違いやすい。
                                       
5、病気による変形葉・斑入りは樹に勢力がなくなるとよく出る。風通しの悪い場所の樹に生じやすい。ウイルスによる変化葉の場合でも逆に、そのままで安定することもある。
                 
6、樹によって「枝変あり」といって突然・ある枝が違った葉を出す。このような枝校が取り木されて園芸種になっている。その反対で変わった葉ものが、ある年突然普通の葉に戻ることもある。
       
7、一本の樹で葉形の変化が激しいもの、定まらない葉形のものがある。また高木になると、太陽に当たる葉と日蔭の葉では、広葉と深裂の違いがある。
                             
8、低木に注意。2mになっても幼木もあれば、50cmに満たない樹で成木もある。種子がなれば成木。幼  木から成木に成る時、葉形が変わるものが多い。種子からの苗木は約5年、定植して約3年で安定した葉形をみせる。

9、極度に日陰の樹は、深裂細葉になっている場合が多い。といった具合に安定した樹、安定した葉を、 標本にすることは大変難しいことです。人の顔のように1本1本異なる。特にイロハカエデ節イタヤカエ  デ節は難しく思う。古木の種子をまくと・数百粒に1本・時には数十粒に1本大変変化した葉形のものが  生まれる。それらの苗は、比較的弱いものが多い。自然の中では余程の条件が良くないと、生き残れ ないが、人間の手によれば、大切に育てられ生き残れる。しかし自然の中でも何十年という間には、何千本の中から・何万の種子の1粒から・何らかの条件により、変わっ:た樹が生まれているはずである。

大昔から人間は、このような珍木は、ほって置かないのが常である。園芸名を付けられ好者の手に渡っていく。カエデの園芸品種は、人工交配で生まれたものは無く、自然交配、もしくは樹其のものの特性から出るものだ。それだけに、標本は、多い方が良い。と言っても多くを採取することが大変である。でもそれなりに集めてみると、中間種的なものがあり、並べると各々'節'内でつながり・区切りにくい。最後の頼みは・科学的ではが、数を見て、触ることによっての、感に脚こ頼らざるを得ないと感じた。        
すべて自己流である。カエデがそうさせるのかもしれないと私は思っている。


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