主役はもみじ    桑山俊子様

   
 もみじは秋の季語、それが通用しないと感じた
のは大宇陀の山中でした。心の中で秋の夕日の
照る山もみじ、と歌うけれど今は初夏。日差しを
浴びた木には、咲く花の様な彩りのもあり、春
もみじの美しさに初めて出会ったのです。

 国際色豊かでカエデ園には内外のものが三千本
もあります。円照寺や東大寺の信仰の地から来た
奥床しいもみじもあれば、アメリカ産の「フェリー
ヘアー」の様な突飛で糸状のもあります。まだ
小さいカエデを見ると、カナダはメープル街道、
雄大なセントローレンス河沿いの果てしない黄葉
への思いは馳せます。同じ木でも上下で葉形が
違うものもあるのは驚きで、変化のあるもみじに
「浴衣の柄にすると涼しそう」「着物柄になると
粋な事」と想像しつつ道を縫って歩くと、過去に
出会ったもみじが思い浮かびます。

 去年京都駅ビルホテル内の吉兆で食事をした
時、器の中で秋を演じいたもみじ。仲居さんの
「月でお楽しみ下さい」に夫と見とれていたのを
思い起こします。秋の風景と箱庭に見立て、飾り
付けられたそれはお料理の脇役です。

 見ている内に思い出したのは、京都の原光庵。
丸窓の悟りの窓と角窓の迷いの窓があり、窓
からは紅葉のもみじが眺められました。山を背に
した光悦寺は、光悦垣に掛かるもみじと言う風に
どちらも組み合わせの美しさです。

 でみ菟田野の里は紅葉が主役。もみじの一本
一本が、葉の一枚一枚が精澄な風土の中で
大手を広げています。

 そして魅了され続けているのは頂いて帰った
ポストカード。レンズを通したもみじの葉は、生
あるときには感じ得なかった妖艶さを伴います。
これは矢野さんの技でしょう。今にも写真から
魔術でスルリと抜け、私の前に舞う様な気が
します。           H19 初夏
   



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